職場に新人の子が入ってきた。

彼は先日成人式を迎えたばかりの、二十歳の男の子。

初対面のときから
不思議な雰囲気を持った人だと思った。

彼がインテリア関係の仕事に就きたいと考えている
と言う話を聞いたときに、うなずけた。

美術関係の学校を卒業したと聞き、
興味本位で似顔絵を描いてと頼んでみた。

しぶりながらも、ボールペンを持って、
私が用意した私の手帳のイチページに線を引出した。

ただの、線。

ぐちゃぐちゃぐちゃーって線を引く彼。
戸惑う私。

それなのに、めちゃくちゃに引いた線の中から
顔が浮かび上がってきた。

本気で私は驚いた。
こんな絵の描き方があるのか、と。
信じられなかった。

影を画くのだと彼は言った。

紙は白くてそれ以上白くはならないから。
影をどんどん描いていくのだと。


彼には夢があるそうだ。

ただ、簡単に理解されるような夢じゃないから
自分をよく知らない人に簡単にその夢を口にはしたくないと。

そんなことを言われると余計に知りたくなると訴える私に。

最近読んだ本に書いてあったことだけど、
と彼は話した。

例えば宗教の世界において、
その「真髄」だけを何も知らない人に伝えても
本当に伝えたいことは伝わらない。

何かを理解するのには順序がある。

物事の「真髄」は、
そんなに簡単に口に出して言うべきものでもない。
簡単に口に出すことで、歪んだ解釈をされてしまうから。

順序立てて伝えないと、
本当に伝えたいことは伝わらない、と。


私よりも五歳も年下の男の子だけど、
素直に、すごいと思った。

彼のような人に、生まれて初めて出会った。

「芸術家」と呼ばれる人に縁のなかった私。
彼はまさに芸術家肌の人間だ。


途中描きになってしまった、絵。

それなのに、私は甚く感動をした。

彼の絵が欲しいと私は思った。

絵に心を初めて感じた瞬間だった。


本当に、不思議な人。

出会えたことに感謝をしたくなるような人に出会ってしまった。


恋愛感情とかではなく。

ただ。
出会ったことで私の人生が少なからず変わるだろうな、と。

この先。
彼の考えに影響を受けるだろうな、と。

直感で、私はそんなことを感じた。

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